褒めることの効用
さらに1か月ぐらい経ったある日。内容は忘れてしまいましたが、Aさんから再び電話がかかってきました。ある社会現象に対して、当百貨店ではどう判断するか、といったような内容でした。先方は名乗らなかったので、最初は一般の方だと思ったのですが、話している途中でAさんだと分かりました。
最初からどうも変な話し方でした。なにか「引っかけてやろう」というようなものです。引っかかったら絡まれそうな話法でしたので、こちらも慎重に対応しました。充分に注意したせいか、10分弱で何ごともなく終わりましたが、こうしたエピソードからも分かるように、彼女は常に、どこかに不満をぶつけて生きるタイプだったようです。
なお、Aさんのように気分の浮き沈みが激しい方からの苦情はよく受けましたが、陽気なときのほうが、私はやりづらかったです。沈んでいるときに、先方の気分をよくする話法は難しくありません。しかし、陽気なときは、ちょっとでもおかしな話をすると突っ込まれます。できる限り聞き役に徹し、話すときは言葉を充分に吟味しなければならないのです。
また、相手の心理状態(Aさんの場合は、うまく結婚までこぎつけることができるか、心配している点)を慎重に読んで、対応することは欠かせません。
Aさんとのやりとりのさいは、見えない婚約者の男性を褒めあげました。それがうまくおさまった理由の一つかもしれません。
なお、Aさんはその後も店によく現れました。何事もなかったような態度でした。
※本稿は、『カスハラの正体-完全版 となりのクレーマー』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
『カスハラの正体-完全版 となりのクレーマー』 (著:関根 眞一/中公新書ラクレ)
シリーズ累計30万部突破のベストセラー『となりのクレーマー』に大幅書きおろしを加え、カスハラがはびこる令和の世に問う。苦情処理のプロが、これまで実際に対応した事例を基に、相手の心理の奥底まで読んで対応する術を一挙に伝授。イチャモン、無理難題、「誠意を見せろ!」カスハラたちとの攻防が手に汗握る、でもかなり面白い「人間ドラマ」の数々。