「子持ち」は「持つ者」?

「持つ者」「持たざる者」という視点のふたつめの軸は、「子持ち」「子なし」だ。

礼子は、職場で年下の女性に、悪気なく子育てしたい人を応援したいと言った主旨の発言をしたところ、相手はその場では同調していたが、トイレでその発言をさして「傲慢」と言い、子どもを持つことがいいという前提で話すのはどうなのかといった陰口を言っているところに遭遇してしまう。その相手は、礼子を「持つ者」とし、「持たざる者」の気持ちなどわからないと言っていた。

『死ねない理由』
『死ねない理由』(著:ヒオカ/中央公論新社)

礼子は傷つき、困惑する。そして、そう言われた気持ちを詩穂に吐露する。

「子どもは可愛いだけじゃない。

私だって仕事終わりに焼肉に行きたい。

私からしたらあっちの方が持てるものなんじゃないかと思うけどね。

自分のために時間を使える自由がある」

礼子を「持てる人」とした職場の女性は仕事終わりに焼肉に行くと言っていた。礼子からすればその自由が自分にはない。自分が欲しい自由や自分の時間がある彼女のほうが、「持っている側」に見える。