長引いた争い
ただ、事実関係の否定に終始した男子生徒の態度に「思わず攻撃的になってしまった面は否定できない」と夫婦に理解も示した。声を荒らげたのも一部の場面にとどまるとして、男子生徒側の請求は全面的に退けた。きっかけとなったいじめやヒアリングから、5年以上が過ぎていた。
文部科学省によると、全国の小中高校などで22年度に認知されたいじめの件数は68万件で過去最多を更新した。我が子が当事者になる可能性は一層増している。いじめが許されないのはいうまでもないが、加害者もまた子どもで、大人が鋭利な言葉を投げつけていいことにはならない。判決はそうクギを刺した。
だが、実際に苦しんでいる我が子と、事態に向き合おうとしない相手方を前にしたとき、果たしてどれだけ慎重に言葉を選び、冷静に対応できるだろうか。そもそも当事者同士を引き合わせた学校側の対処は適切だったのか。名も無き訴訟がいくつもの難題を突きつける。
※本稿は、『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(日経BP)の一部を再編集したものです。
『まさか私がクビですか? ── なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(著:日本経済新聞「揺れた天秤」取材班/日経BP)
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