パット・ブーンニティパット監督
パット・ブーンニティパット監督(撮影:本社・奥西義和)
6月13日、いよいよ日本公開となるタイ映画『おばあちゃんと僕の約束』。ニートに近い生活をしているエムという主人公の青年が、メンジュおばあちゃんの遺産をあてにする、という設定です。一見不謹慎な動機で同居を始める孫と、受け入れたおばあちゃん、2人の関係を中心に、ありふれた家族の摩擦や問題、そして心温まる交流を、バンコクの美しい風景の中でユーモラスに描く、3世代の物語です。 今の時代ならではの笑いや切なさが絶妙に織り交ぜられた物語は、タイで若者を中心にSNSで拡散され大ヒットを記録。人気はアジアに広がり、更にはタイ映画史上初となるアカデミー賞国際長編映画部門にショートリスト入りも果たしました。今作が長編映画監督デビューとなるパット・ブーンニティパット監督に、作品に込められた思いを聞きました。 (構成:野辺五月 撮影:本社・奥西義和)

実話が生んだ”それぞれの家族”の物語

――まず、この素晴らしい物語がどのようなきっかけで生まれたのか。どんな経緯で制作されたのか教えて下さい。

脚本家のトッサポンの20年あまり前の実際の経験から着想を得ました。
彼は若いときに、祖母が亡くなるまでの面倒をみていました。けれど、祖母は一番大きい財産としての家は長男に残し、ずっと介護をしていた彼には一本の銀のベルトしか残さなかったのです。
その時、彼は「祖母は、自分のことをどれだけ愛していたんだろうか」と疑問を持ちました。――これこそが、この物語の始まりです。

――銀のベルトは、今回の映画にも出てきますね。是非本編にて確認頂きたいですね。監督自身もおばあさまと仲が良いと伺いました。

はい。今回の映画を撮るにあたって一緒に暮らして、いろいろ質問しました。私は子どもの時は大家族で暮らし、20~30人の中で育ちました。けれど、今実家には3人しか残っていません。それが、私と母と祖母です。
他の人は、借金をして家を出て行ったり、そのお嫁さんと兄弟が喧嘩して出ていったり……そうして段々と家族が減っていきました。そんなすべての出来事の中心に、祖母はいたのです。私にはそういった一連の出来事に対する祖母の気持ちを楽にしたい気持ちがありました。
それがこの映画のテーマになったのだと思います。