魅力的なロケ地と小道具
「おばあちゃんの家」はどう生まれたか?

脚本を書いた当初、おばあちゃんの家は「タウンハウス」を探していました。日本でいうところの、「町屋(ここは日本語で)」です。

――町屋! 監督、詳しいですね。(※監督は日本が好きで日本語も勉強しているそうです)

町家のように、似た形の家が並んでいるロケ場所を探してたのですが、ふと「家の周りがどういう風になっているか」を考え、狭い路地に入りこみました。車も通れない細い道だけれど、こんな家の前で兄弟が走り回って遊んでいたらどうだろうか?と想像したとき、家は路地の奥がよいのではないかと思ったんです。

――おばあちゃんの暮らす家や、お粥売りの舞台はタイ・バンコク市内のタラートプル―というエリア。1905年に開業した古いタイ国有鉄道の駅周辺の古い下町にありますね。この家はどうやって見つけたのですか?

実は5年前に写真を見たことがあって、あの地域であることはわかっていました。ただ写真には場所が明記されておらず、スタッフが実際に似たような家がないか探しに行きました。周辺の人たちに声をかけて、やっとたどり着いたのがあの家です。

――すぐに借りられたのですか?

ところが、最初に訪れた日、お年寄りが家の中でテレビを見ていたのですが、いくら声をかけても振り返ってくれなくて……。それでどうしようかなと思って一度引き返したんです。 後日、スタッフが再度家をたずね、そこにいた家の持ち主である弟さんに話を聞いたら、ご本人は耳が聞こえないということがわかり、最終的に弟さんに交渉してあの家を使わせていただくことになりました。

本来であれば、撮影中、住んでいる方には他所に移ってもらうように手配をする必要がありますが、お兄さんの耳が聞こえないことが幸いして、撮影中もそのまま二階で暮らしてもらったんです。階下の撮影の音も気になりませんから。

ただ、時々いきなり降りてきてシャワーを浴びることがあって、シャワーの音がカメラに入ってしまうので撮影を中止することはありました。そこで、スタッフがちょくちょく2階を見にいき、「石鹸を持ったから、これからシャワーを浴びに来る」と知らせるようになって(笑)。でも、すごく良い人で、撮影中によくお菓子を持ってきてくれました。

撮影場所のお婆ちゃんの家は、細部まで作り込まれてリアリティがある。映画『おばあちゃんと僕の約束』より