やなせ流

『アンパンマン』を『キンダーおはなしえほん』に描こうと決めた時のことは、亡くなる年の春頃にもまた、私にこう話している。

「フレーベル館みたいな出版社から『アンパンマン』のようなお話を出して売れなかったら、もう作家生命はないと覚悟したが、それでも描いておきたかった」

先生がこの作品に人生をかけていたことがよく分かる。

自分らしい作品は何かと問い続け、めぐりあった『アンパンマン』。未来を断たれても描き残そうとした、やなせ先生の作家としての生き方そのものから誕生した作品、それが「やなせ流」なのだと実感した。

※本稿は、『やなせたかし先生のしっぽ: やなせ夫妻のとっておき話』(小学館)の一部を再編集したものです。

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やなせたかし先生のしっぽ: やなせ夫妻のとっておき話』(著:越尾正子/小学館)

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マイペースでのんびりと、いつも人の一番うしろにいた著者が、先生の残したしっぽのような思い出とことばをたどるエッセイ集。