やなせ流
『アンパンマン』を『キンダーおはなしえほん』に描こうと決めた時のことは、亡くなる年の春頃にもまた、私にこう話している。
「フレーベル館みたいな出版社から『アンパンマン』のようなお話を出して売れなかったら、もう作家生命はないと覚悟したが、それでも描いておきたかった」
先生がこの作品に人生をかけていたことがよく分かる。
自分らしい作品は何かと問い続け、めぐりあった『アンパンマン』。未来を断たれても描き残そうとした、やなせ先生の作家としての生き方そのものから誕生した作品、それが「やなせ流」なのだと実感した。
※本稿は、『やなせたかし先生のしっぽ: やなせ夫妻のとっておき話』(小学館)の一部を再編集したものです。
『やなせたかし先生のしっぽ: やなせ夫妻のとっておき話』(著:越尾正子/小学館)
2025年春NHK朝ドラ「あんぱん」のモデルとなったやなせ夫妻に20年寄り添った秘書がはじめて語る、おふたりの暮らし、生活、仕事に思い出…。
マイペースでのんびりと、いつも人の一番うしろにいた著者が、先生の残したしっぽのような思い出とことばをたどるエッセイ集。