(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
厚生労働省が公表している2023年の「介護給付費等実態統計月報」によると、85歳以上の59.5%が介護認定を受けています。高齢の親を子どもが介護するケースも増えるなか、「親思いの優しい人間が結果的に損をしてしまう」と語るのは、自身も介護経験がある作家・姉小路祐さんです。今回は、姉小路さんの著書『介護と相続、これでもめる! 不公平・逃げ得を防ぐには』から抜粋し、介護・相続をめぐる事例を紹介します。

脳疾患を患った母親の介護

H子さんは3姉妹の末っ子である。父親はH子さんが大学を出て4年目に急死した。H子さんは大学を卒業したあと、3年間は私立高校の非正規の国語担当の講師として勤め、その仕事ぶりが認められて正規の教諭として採用された。姉2人は結婚して、実家を出てそれぞれ子供をもうけていた。

専業主婦であった母親は、人見知りをする性格で、学校時代からの友人やママ友もほとんどおらず、御近所づき合いも、定年後に町内会長も務めた夫に多くを任せていた。夫婦仲は良かっただけに、父親を亡くしたあとは塞ぎがちになっていた。

父親の死から約2年後、母親は脳疾患を患った。勤務先から帰宅したH子さんは異変に気づいてすぐに病院に搬送したが、右半身に後遺症が残った。

H子さんは介護認定の申請をしたが、その手続は予想していたよりも煩雑であった。要介護・要支援認定申請書、母親の介護保険の保険証、申請者であるH子さんの身分証明書、主治医の病院名や氏名、といったものを提出し、そのあと訪問調査を受けた。退院した母親にどのくらいの運動機能や生活機能などが備わっているか(見方を変えれば、残存しているか)を調べるための訪問である。

そのあと1次、2次のプロセスを経て、要介護度の認定がなされる。

申請が立て込んでいるようで、1ヵ月近くかかって要介護1の認定がなされた。