評論家の樋口恵子さんと作家の黒井千次さんは、幼馴染。ともに「老い」に向き合う著作が話題となっています。戦争体験から八十余年、人生の悲喜こもごもを経験してきたお二人が、近況を赤裸々に綴りつつ、エールを送り合ったお便りを紹介します。(イラスト:マツモトヨーコ 撮影:村山玄子)
《第二信》黒井さんから樋口さんへ
樋口恵子さま
お便りいただきました。この前、久しぶりにお目にかかってから、もう二年近くの年月が経ったのに気づき、驚いています。あの時、また一年くらい経ったらお目にかかりたいですね、と言い交わしたのは覚えているのですが、その後二年近くの歳月が過ぎていたのに驚いたのです。つまりその分だけ、お互いに歳をとったわけです。
樋口さんがやや体調を崩されているので、今回は対談ではなく、お手紙のやり取りにしませんか、という『婦人公論』編集部からの問い合わせに、直ちに賛成いたしました。次第に家から外に出ることに不安を覚えるようになってきた自分にとっても、そのほうがありがたいという気持ちもありました。手紙という表現にも魅力を覚えました。
編集部に〈諾〉の返事を伝えたあと、樋口さんから四つの質問を含むお手紙が届きました。ここから先が「往復書簡」となります。うまくお答えできるかどうかわかりませんが、いずれもヒトゴトではないので、自分なりの考えを書いてみることにいたします。