評論家の樋口恵子さんと作家の黒井千次さんは、幼馴染。ともに「老い」に向き合う著作が話題となっています。戦争体験から八十余年、人生の悲喜こもごもを経験してきたお二人が、近況を赤裸々に綴りつつ、エールを送り合ったお便りを、2号にわたりご紹介します(イラスト:マツモトヨーコ 撮影:村山玄子)
《第一信》樋口さんから黒井さんへ
黒井千次様
ご無沙汰しておりますが、いかがお過ごしでいらっしゃいますか。
久方ぶりにお目にかかってから、はや2年。当時の対談(『婦人公論』2023年8月号)では、「われら同級生、91歳」として、80年以上もの時を超え、思い出話におおいに花が咲き、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。
私たちは、同じ小学校の同学年です。小学校時代の戦争と疎開体験から、生き方を模索した大学時代、そして、超高齢社会を生きる「老いの現実」まで話題は多岐にわたりましたが、作家として人生の深いところを見つめる黒井さんならではの洞察力に、さすがと感嘆したものです。
私たちは共に誕生日が5月ですが、私は黒井さんより3週間ほど早く齢93となるわけで、まさに「老いは、いま」の問題であると日々痛感しています。