――〈最後に〉。自分の老いの仕舞い方について、気にかかるのは、それがマワリの人たちに迷惑をかけなければ良いが、という点です。身辺整理について、まだ手をつけていないことがいくつも残っているのです。今日はアレをカタヅケル仕事に着手しなければ、と天井を仰ぎ、毎晩、ベッドを見下ろしながら、やはり今日も何も出来なかったな、と溜息をつくばかりです。
樋口さんは、これまで走り過ぎたのです。幼い頃から意気軒昂のままで、長く走り過ぎたのです。ここらで一息入れてください。誰も樋口さんには文句を言えないと思います。その先のことは、ぼくにはわかりませんが――。
ゴメンナサイ。結局、樋口さんからの質問に正面から、普通の声でお答えすることは出来なかったように思います。
でも、それでよかった。樋口さんのような友達がいてくれて、本当によかった、と深く感じています。
樋口さん、弱音を吐きながら、もう少しガンバリましょう。もう少し生きていましょう。
二〇二五年四月
黒井千次