ごはんがこびりつかないしゃもじ
植物から生まれたバイオミメティクスの、もう一つの代表があります。「ごはんがこびりつかないしゃもじ」です。これは、ある植物の葉っぱの性質をヒントに開発されました。さて、その葉っぱとは、何の葉っぱなのでしょうか?
正解は、ハスです。ハスの葉っぱは、水をきれいにはじきます。ハスの葉っぱの上に水を落とせば、コロコロの水滴になります。ハスの葉っぱの表面を触ってみると、ツルツルのように感じます。そのため、「コロコロの水滴になるのは、葉っぱの表面がツルツルだから」と思われがちです。
しかし、そうではありません。まったく逆なのです。表面はツルツルのように見えますが、顕微鏡で観察すると、ハスの葉っぱの表面は、細かいデコボコになっているのです。葉っぱの表面には多くの細かなコブがあり、そのコブの先端に水をはじく物質が少しついています。ですから、葉っぱの表面は光るように見えます。
葉っぱの表面に落ちた水は、はじかれて、丸い水滴になり、コロコロと転がります。転がりながら、葉っぱの表面にある小さなゴミや虫を絡め取りながら落ちていきます。そのために、葉っぱの汚れが落ち、ハスの葉っぱの表面は、いつもきれいに輝いているのです。
葉っぱの表面の細かなデコボコにより、水がはじかれるのは、「ハスの葉効果」といわれます。ハスは、英語で「ロータス(lotus)」です。そのため、「ハスの葉効果」は、「ロータス効果」ともいわれます。
このロータス効果を利用した商品の一つが、「ごはんがこびりつかないしゃもじ」なのです。実際に、このしゃもじにはごはん粒がこびりつきません。「なぜ、こびりつかないのだろうか」とふしぎがられます。このしくみは、ハスの葉っぱの表面が水をはじくのと同じなのです。
このしゃもじの表面にははっきり目に見えるコブがあります。このコブが水をはじくのではありません。そのコブの表面が、細かな多くのコブで覆われているのです。その細かなコブのおかげで、ハスの葉っぱの表面で水がはじかれるのと同じように、ごはん粒に含まれる水がはじかれます。そのため、ごはん粒がしゃもじから浮き上がるような状態になり、しゃもじにこびりつかないのです。