火葬にかかる費用の格差

なお、東京博善が経営する6カ所の火葬場とは、東京都荒川区の町屋斎場、東京都新宿区の落合斎場、東京都杉並区の堀ノ内斎場、東京都渋谷区の代々幡斎場、東京都品川区の桐ケ谷斎場、東京都葛飾区の四ツ木斎場だ。2024年6月には、燃料費高騰を理由に、基本の火葬費用を大人9万円に値上げした。

私の病院がある東京都大田区は、品川区、港区、目黒区、世田谷区と一緒に公営の臨海斎場を作り、その5区に住む区民の火葬料を4万4000円に設定している。これでも全国的な相場よりは高いようだが、東京博善の火葬場はその倍以上だ。東京都立川市、国立市、昭島市は共同で公営の火葬場を運営しており、市民は自己負担なしで火葬が可能だ。八王子市、町田市、多摩市、稲城市、日野市も共同で南多摩斎場を運営しており、こちらもこれらの市の住民は無料で火葬してもらえる。同じ都民でも、火葬にかかる費用にかなりの格差があるわけだ。

厚生労働省のデータベースによると、全国の火葬場の多くは市区町村などの公営で、設置主体の自治体の住民は火葬料が無料のところも多い。火葬場を利用する際には、別途控室の利用料や飲食費、骨壺代などもかかる。東京都内でも公設の火葬場のない自治体に住む住民は、他の自治体にある公営の火葬場を有料で利用するか、東京博善など民間の火葬場に依頼することになる。東京23区の区民の7割が東京博善の斎場で火葬されている。

しかも、多死社会で、人口の多い東京都内の斎場はなかなか予約が取れず、1週間以上待たされることも少なくない。火葬場にもランクがあって、例えば、東京博善の斎場なら16万円する特別殯館を選べば比較的簡単に予約が取れる。父が亡くなったとき、さんざん私に迷惑をかけた父の葬儀をさっさと終わらせたいと考え特別殯館を選んだところ、火葬時間が非常に短くてびっくりした。標準ランクなら1~2時間はかかるが、特別殯館では1時間もかからず骨もきれいに残っていた。

いずれにせよ、誰かが死んだら必ず火葬しなければならないわけだから、人口の多い都市部の火葬場の経営は安泰だ。東京博善は、葬祭事業にも乗り出しており、2021年3月期に約83億円だった売上高を、2024年3月期には1.6倍の132億円に伸ばしている。火葬・葬儀業界で中国の実業家が多額の利益を得ても、問題ないのかもしれないが、医療が中国資本をはじめとする外資系だらけになったら、医療というインフラの永続性が危うくなるかもしれない。日本企業だから安心とは限らないのはもちろんだが、海外の企業は、概して日本社会への帰属意識が希薄で、日本の医療がどうなろうと気にとめない可能性もあるからだ。

※本稿は、『2030-2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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