若き父がいた歴史ある寺院を訪問

父が少しの間いた寺院を、私は見たくなった。

猛暑の日だったが、歴史があり、とても印象的なお寺なので、境内を歩き回り、眺めていた。見学に来たバアサンが熱中症で倒れてはいけないと思ったらしく、冷たいペットボトルのお茶を持って来てくれた人がいた。副住職だった。私は、電話で戒名のことを聞いた者だと言うと、副住職は、「古いアルバムがあるので、お父さんの写真があるかもしれませんよ」と言い、部屋に通してくれた。「お父さんの写真があったら撮影しても良いですよ」とまで言ってくださり、私はありがたくて涙が出そうになった。

残念ながら父の写真はなかったが、父の前妻の写真はあった。才女の雰囲気があり、私があこがれる会社で、バリバリと働いていたことが想像できた。

私は、母が「死んだと思われていなくても、いずれは、お父さんは奥さんに愛想をつかされて、追い出されていたよ」と言ったのは、愛する奥さんに離婚された父への慰めの言葉のようにも思えた。帰り道、私は父の言った「人生で最悪の日」のことを思い出した。それは、妻が結婚していたことを知った日ではなかった。

「シベリア抑留から帰還した父が語った”太平洋戦争開戦の日からの経験。帰還者たちの記憶ミュージアムと早稲田大学商学部卒業生の会から父の苦闘を知る」へつづく

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