タンパク質を多く摂ることによるデメリット

以上のように、タンパク質を多く摂取することで骨格筋量が増加し、将来サルコペニアやフレイルになるのを防ぐことが期待できそうです。しかしながら、私たちの健康状態は骨格筋量だけで決まるものではありません。それでは、タンパク質の摂取量とその他の生体機能との関係については、どのような研究結果が報告されているのでしょうか?

実は、タンパク質を多く含む食事は、糖尿病などを発症するリスクを増大させるという研究結果が報告されています。たとえば、ヨーロッパで約4万人を対象として行われた大規模調査では、炭水化物(糖質)もしくは脂質の摂取量を減らすかわりに、タンパク質の摂取量を増やす(タンパク質からのエネルギー摂取量を5パーセント程度多くする)ことで、2型糖尿病(i)の発症リスクが~30パーセント増大するという結果が報告されています(6)。

逆に、タンパク質の摂取量を減らすことは、糖尿病予防のための有益な手段になりうるという結果も報告されています。たとえば、エネルギー摂取量が同じ食事でも、タンパク質からのエネルギー量が全体の7─9パーセントとなるような食事を約6週間摂取した人(過体重~軽度肥満の中年)では、体重が2.6キログラム減少し、空腹時血糖値も低下したのに対して、タンパク質が総エネルギー摂取量の~17パーセントを占めるような食事を摂取した人では、そのような効果は認められなかったという研究結果が報告されています(7)。ちなみに、この「総エネルギー摂取量の7─9パーセント」という値は、沖縄の百寿者のタンパク質摂取量に近い値となっています。

減量・ダイエットを行った際には、体脂肪量だけを減らすことが望ましいのですが、骨格筋をはじめとする除脂肪組織も減少してしまうことがあります。そのような除脂肪組織の減少を最小限にとどめるために、減量中にはタンパク質を多く摂取することが推奨されています。

しかしながら、肥満者を対象として行われた研究では、減量期間中のタンパク質摂取量が通常の食事と同じ場合(0.8グラム/キログラム体重/日)には、体重を10パーセント減らすことで、インスリンの効き目がよくなり、血糖値が低下しやすくなった(インスリン感受性が改善した)のに対して、タンパク質量の多い食事(1.3グラム/キログラム体重/日)を摂取しながら減量を行った肥満者ではそのような効果が得られなかったことが報告されています(8)。つまり、タンパク質を多く摂取した肥満者では、体重や内臓脂肪が顕著に減少したにもかかわらず、依然として2型糖尿病の発症リスクが高いままだったのです。

さらに、アメリカで行われた国民健康・栄養調査においても、高タンパク質食(総エネルギー摂取量のうち20パーセントもしくはそれ以上がタンパク質で構成されているような食事)を摂取している50─65歳の男女(6381名)では、低タンパク質食を摂取している人たちに比べて、18年間の追跡調査期間中における死亡率が75パーセントほど高く、さらにがんおよび糖尿病による死亡率も4倍高かったことが報告されています(9)。

以上のように、確かに骨格筋量を増やすという点においては、タンパク質を多く摂取することが効果的といえそうですが、その一方で、糖尿病の発症率や死亡率といった点においては、むしろ好ましくない影響をもたらす可能性があることが示唆されています。体のある一部の機能に対して優れた効果が得られることが報告されると、私たちは、その栄養素を少しでも多く摂取しようとします。

しかしながら、その栄養素を過剰に摂取することで、別の部分ではむしろ悪影響が生じる可能性もあります。したがって、世間で有効だといわれている栄養素に関しても、「他の部分に対してはどのような影響があるのか?」ということに注意を払いながら、摂取量を増やすべきか否かを冷静に判断する必要があります。

(i)過食や運動不足などが原因で発症する糖尿病で、一般的に生活習慣病と称されるタイプのものをいいます。一方、1型糖尿病は、主に自己免疫反応によってインスリンの分泌を担う膵臓のβ細胞が破壊されることが原因で発症する糖尿病を指します。