◆《リスト沼》 はコワい

リストという作曲家はとてもユニークで、50歳を過ぎた頃に出家して僧籍に入ってしまうんです。年中、女性と浮名を流していたのに、意外と敬虔なカトリック信者だったんですね。

当時のロックスターのような存在だったアーティストが突然、生き方を変えるという、その転換ぶりもすごいと思うのですが、出家してからの作品もまた個性的なものばかり。たとえば、『ヌアージュ・グリ(暗い雲)』あたりが代表的な一曲です。

この時代の作品は、徐々に調性感が薄れていき、近代の音楽、つまり20世紀の調性感のない音楽作品の響きに少しずつ近づいていくのが特徴です。かなり瞑想的な作品も多くなってきて、リストの心境の変化が明確に感じられますね。

要するに、ここからリストの長い人生にまた新たな局面が切り拓かれていくわけです。この人は74歳まで生きた作曲家ですから、ピアノ曲のレパートリーだけでもすべての作品を追うのは一仕事。これはもう、「リスト沼にハマったら長いよ〜!」としか言えない。《悪魔的な》作品のオンパレードといい、膨大なレパートリーといい、もう「ハマっちゃいけない危険な男」のランキングNo.1決定でしょう。

 

※本稿は、『これが規格外の楽しみ方! たくおん式なるほどクラシック』(石井琢磨:著/KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

【関連記事】
YouTuberピアニスト・石井琢磨×菊池亮太「僕たち、ネオクラシックコンビ」ライブ配信とライブ公演、それぞれの良さと理想の比率は…?
同じ旋律を840回繰り返す。音に色を付けて演奏!? 舞台からだんだん演奏者が減っていく…YouTuberピアニスト・たくおんが選んだクラシック珍名曲
YouTuberピアニスト・石井琢磨が中3で〈ピアノで食べていこう〉と決意したきっかけとは?「発表会でラヴェルの『ソナチネ』を弾いたら、見知らぬおばあ様から意外な言葉を…」

●リスト『ラ・カンパネラ』(YouTubeチャンネル「TAKU-音 TV たくおん」より)


これが規格外の楽しみ方! たくおん式なるほどクラシック(石井琢磨:著/KADOKAWA)

「クラシックをもっと身近に感じてほしい」YouTubeの登録者数32万人(2025年6月現在)、アルバム発売の全国ツアーでは総動員数1万人を記録した、今注目のピアニスト石井琢磨氏が解説するクラシック音楽の魅力と新しい楽しみ方。初めてクラシックに興味を持った人が聴くべき音楽家、名曲の魅力など、著者独自の視点で解説。