入院する男性(写真はイメージ/写真提供:Photo AC)
日々の暮らしにふと立ち止まり、「自分は何のために生きているのだろう…」と深い溜め息をつくことはありませんか?4000人を看取ったホスピス医・小澤竹俊氏によると、誰もにとって人生の目的は「幸せになること」だといいます。家庭や仕事の苦悩で心が押しつぶされそうなときこそ、目の前の“灯”に気づけば、思いがけず人生の意味が見えてくるかもしれません。著書『暗闇の中で「小さな灯」に気づくヒント だから、あなたも幸せになれる』より、一部を抜粋して紹介します。

ただ生きているだけは幸せなの?

私が担当した50代のお父さんは、金融関係の仕事をしていました。

高校を卒業して銀行に入行したその人は、大学を卒業した同期の仲間には負けたくない思いがありました。

他の仲間よりも少しでも良い成績を収めたいと、朝早くから夜遅くまで働き通し。家族をかえりみず、週末も接待ゴルフや、営業の仕事に出かけて、家族と行動を共にすることはありませんでした。

仕事の業績はいつも上位、やがて同期入社の仲間の中で、一番早くに支店長になりました。そんな何もかも順調に見えたある日、肺がんが見つかりました。

その日から生活が一変しましたが、元気になって、仕事に戻りたいと願いました。最善の治療を続け、副作用の強い抗がん剤にも耐えてきました。

しかし、どれほど最善の治療を受けても、肺がんは快復することはありませんでした。

これ以上の治療は、かえっていのちを縮めるとの判断で、以前私が務めていたホスピス病棟(積極的な治療が困難と診断されたがん患者さんと家族のケアを行う病棟)に入院してきました。

はじめて本人に会ったとき、もう私にはやることはない、人生のすべてを失ってしまった、と嘆いていました。

絶望感から、表情は硬く、言葉数は多くありません。しかし、「私は何のために生まれてきたのだろう?」その一言から、新しい人生がはじまりました。