「だよな? テツ。やっぱりだよ。オレには分かってた。そうだろうと思ってた」
「え?」
もしかして、自分は記憶がどうかしていて、このタモツという人と、以前どこかでお会いしたことがあったのか──。
「靴屋のね」
「靴屋?」
「テツっていう、ものすごくいい犬がいたんだよ。靴屋のご主人の犬で。いや、遠目に見たときから──あそこのあのロビーからね、アンタが見えて、もう一瞬でテツだって分かった」
「自分がですか? いや、自分は犬ではなく──」
「ああ」と彼は急に声を落とし、「天寿を全うしたんです。去年ね。あんなにいい犬はいなかった。な?」
足もとの白い犬──ジャンゴだったか──に同意をもとめ、
「テツは無口な犬だったから、あんまり喋らなくて。なんていうか、奥ゆかしいっていうのかな。オレと正反対で。だから、オレはテツを尊敬してた。なのに、みんなはテツのことを無愛想だとか、言うことをきかないとか言って。テツはそんなヤツじゃない。オレには分かってた」
自分には彼が涙ぐんでいるように見えました。
「オレたちは分かり合ってた。ほら、アンタのその目、テツと同じ目だよ。オレには分かる。アンタはテツの生まれ変わりだ」
(生まれ変わり?)
「あの──そのテツという犬は、去年、亡くなったんですよね?」
「号泣したよ。いまだって号泣したいくらいで。いや、分かってる。生まれ変わりっていうのは正しくない。この世の真っ当な時の流れに従って考えるなら、まったく正しくない」
彼は足もとのジャンゴに向かって、二度三度、頷きました。
「だけど、そう言いたくなるくらいそっくりなんだよ。いや、いきなり、犬にそっくりだって言われても面食らうよね。でも、ジャンゴは分かってると思う。テツに似てるっていうのは最高の褒め言葉だって」
「そうなんですか」
「もしかして、アンタはオレの頭がどうかしていると思ってるかもしれない。それはまぁ、あながち間違ってないけど、オレは神様に感謝したいんだよ。ありがとう、もう一度、テツに会わせてくれて、と」