サービスの賢人、現る

サービス人によってお店の売り上げは大きく変わります。飲ませ上手なソムリエというのは、別にワインの押し売りをするのではなく、客に気持ちのいい時間を提供してくれます。それによって、ついついお酒が進んでしまうわけです。

ロッツォシチリア」の阿部努さん、2024年7月に閉店した「モンド」(現「Siamonoi」)で活躍し、今は「アヴィ・ド・ヴァン・フォール」で支配人を務める田村理宏さん、「三和」の村中詩季さんらは、その道の達人です。

『50歳からの美食入門』(著:大木淳夫/中央公論新社)

最近はグラスワインを頼むと、スケール(はかり)の上に乗せてきっちりと量を計って出す店も多いですが、彼らはそんな興ざめするようなことはしません。客を観察していて、飲みそうな人にはさりげなく量を多くしてくれたりと、柔軟です。

そしてグラスが空く前に次のワインを勧めてくれますし、選び方も客にゆだねるというよりは、確信的に愛を持ってピンポイントで出してきたりします。その「間」とトークが絶妙すぎて、ついつい身を委ねてしまうのです。ボトルで頼んだ場合も、会話を邪魔せずにグラスが空く前にすっと注ぎ足してくれるので、こちらもそのテンポに乗って気持ちよく飲み進められます。

客は幸せな気分で酒量が増えて、結果的にお店の売り上げもアップするという、いわゆるウィンウィンの関係を作ってしまうのが、サービス人の凄さです。

ところがこれほど大事な仕事なのに、サービスの世界にはあまりスポットライトが当たってきませんでした。もちろん、「ペリニィヨン明永正範さん、「ラブレー山田恵さんといった、天才サービス人と呼ばれる人は数多くいたのですが。