そしてサービスは店選びの新基準になった
サービスにスポットが当たらない大きな理由として、お店に定着しない、というのはあると思います。せっかくこちらが仲良くなっても、早ければ数ヶ月でいなくなる。これにはスタッフがアルバイトだったり、給与の問題はもちろんあります。
もうひとつはモチベーションですね。優れた才能を持った人だと、比較的短い期間で、ある程度の接客はできるようになってしまう。では次のキャリアプランとして、何があるのか、そこで迷ってしまうようです。もちろん本当は、その先に奥深いサービスの真髄があるのですが。
それだけに、いつも変わらずホールに立つ人がいるとこちらも嬉しくなるわけです。「コート・ドール」の松下尚夫さん、「ラ・ブランシュ」の岡部盛満さん、「ル・マンジュ・トゥー」の楠本典子さんなどは、あらゆる意味で卓越した存在です。
なによりみなさん、シェフの作る料理を愛している。これはいいサービス人の絶対条件でしょう。そして圧倒的な安心感と包容力があります。お店のすべてを知り尽くし、どんな問いにも正確に、そしてエスプリを持って笑顔で応えてくださる。そのサービスに接すると、わざわざこのレストランへ来てよかったなと感じられるのです。
もちろん、「エスキス」の若林英司総支配人のように、有名店を経験しながらソムリエとしての道を究め続け、請われて店のトップにつく場合もあります。
フレンチでは三つ星「カンテサンス」のソムリエだった小澤一貴さんが立ち上げた「クローニー」、イタリアンでは阿部努さんが、「ドンチッチョ」で同僚だった中村嘉倫シェフと共にオープンした「ロッツォシチリア」のように、サービス人がオーナーとなって、東京に轟くような人気店を作っているのは、ひとつの輝ける目標となるでしょう。若手では同じく「ドンチッチョ」系列出身の「フィレモネ」の森裕太さんにも注目しています。
最近では「ダ オルモ」のオーナーソムリエである原品真一さんが、他店にも声を掛けてサービス講座を行ったりもしています。
また、その経験とコミュニケーション能力を活かして、商品開発で成功したり、自らクラフトビール工場を立ち上げたりといった幅の広い活躍をする人もいます。