(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
50代は、経済的なことや健康のことなど、これからの人生についてリアルに考え始める人も増えてくる年代です。レストランガイド「東京最高のレストラン」編集長の大木淳夫さんは、「50代は残された時間を豊かに過ごすスタート時点として大切な時期。だからこそ美食を趣味にするといい」と語ります。そこで今回は、大木さんの著書『50歳からの美食入門』から一部を抜粋し、中高年の外食における楽しみ方をご紹介します。

イタリアンはミュージカル、フレンチはオペラ

狂言回しはサービス担当

「ああ楽しかった!」と、「うん、いい夜だった」の違いとでもいいましょうか。

素敵なお店に出合った後の感想は、実はジャンルによって大きく違っていますし、その印象はサービス人次第だったりします。どんなに味が素晴らしい料理店であっても、シェフは厨房にいるのでなかなか接点はありませんよね。私たちがお店で常に接するのはサービスのスタッフであり、彼や彼女がいかにその場、時間をコントロールしてくれるかが肝になります。

私は常々、イタリアンのサービスはミュージカル、フレンチはオペラだと思っています。

イタリア料理店とは、求道者のごとく料理と向き合う場ではなく、人生を謳歌しに行く場所ではないですか。友と大いに食べ、笑い、飲む。サービススタッフは踊るように軽やかに皿を運び、決してグラスを空にしない。おかげでなんだかやけに痛快になり、最後は食後酒のグラッパをキュッと飲んで、「ああ楽しかった!」と帰る。その高揚感がミュージカルみたいだなと感じるのです。

対してフランス料理店はオペラのような総合芸術の世界です。あるべき理想形がスタッフ全員の中で共有され、そこに向かって厨房もホールもプロフェッショナルに徹して、ひとつの物語を作っていく。

サービス人は踊りませんが、機智に富んでいて、信頼がおける。決して皿を下げる時に「失礼します」などと言って会話を妨げないし、気配を消しながら完璧なサービスをする。優雅に見えて水面下では必死に足を漕いでいる白鳥のような人たちです。こちらもその舞台を肌で感じて、「うん、いい夜だった」と満足するわけです。

みなさんもこのように、ご自身の好きなジャンルに合わせてレストランをたとえると、より楽しめるのではないでしょうか。あの中華鍋を振るオヤジのリズムは、まさにロックだぜ、とか、いつ食べても感動するこの名物料理は、まるで価値が古びないブランド物のバッグのようだわ、とか。ちょっと楽しくなると思いますよ。

ちなみに料理関係者には元ミュージシャン、多いです。