それでも少しでも早く診察を受けて、治療をすれば早く回復できるかもしれない。

一縷の望みを抱き、会場から病院へ直行した。すぐにレントゲンやMRIを撮影して、ケガの状態をドクターが判断する。

どれほどのケガなんだろう。やっぱり無理なんだろうな。

悔しいのか、悲しいのかわからないけれど涙が出そうになる。

そんな私に、チームドクターの小原(和宏)先生はこう言った。

「痛いと思うけど、これぐらいなら大丈夫。試合にも出られるよ」

嘘でしょ。90%以上諦めていたせいか、小原先生の言葉が最初は信じられなかった。

でも、専門家である先生が「大丈夫」と言っているなら、大丈夫なんだ。もしもこれが普通のリーグ戦の1試合ならば、そこまで無理をすることはない。でもこれは5年という長い年月をかけてようやくたどり着いたオリンピックだ。無理に復帰すれば回復が遅くなり、オリンピック後のシーズンに響くこともわかっていたが、小原先生の言葉を受けた私は、選手村に戻り、私の帰りを待っていてくれた(中田)久美さんに言った。

「できます。必ず戻ります」

 

後悔しない選択』(古賀紗理那:著/KADOKAWA)