名刺は社会の変化を現わしている

現在70代で、昭和50年代やそれ以前に大手企業や中堅企業に勤務していた人たちに、男女の名刺のサイズとカタチの差についてたずねてみた。

「当時の実社会ではまだ男女同権ではなかったということでしょう。その名刺こそ、当時の男性が望む女性の立ち位置だったと思う。反発した女性がいたとしても、それを共有できる社会ではなかった」(元大手企業管理職・男性)、「男性は社外の人と会う、女性は男性の仕事の補佐だから名刺は必要なし。生命保険の勧誘に来た女性が、小さくて角が丸い名刺を出した時、『可愛い名刺だな』と思った記憶がある」(元中堅企業営業担当・男性)。

イメージ(写真提供:Photo AC)

「入社後、女性は内勤なので名刺は不要。男女雇用均等法(昭和61年4月に施行)ができて、私も外回りをすることになり、その時は男性と同じサイズの名刺を会社から渡された」(元大手企業社員・女性)、「入社当時は20人の部署全員の湯飲みを覚えてお茶を運び、男性に言われた仕事をするだけで名刺はなし」(元大手企業社員・女性)。「小さい名刺だったが、そういうものだと思っていた。セールスの仕事で、成績が悪いと『だから女性はだめなのだ』と叱られ、成績が良いと『女性だから売れた』と言われた」(元中堅企業社員・女性)。

社会での女性の活躍が当然の時代になったので、時代が逆行しないことを願うばかりである。名刺は印刷技術の変化だけでなく、社会の変化を現わしているようだ。

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