死から人生をさかのぼる
3人の人生をたどる3章の物語は、どれも葬儀の場面から始まります。私は死から人生をさかのぼる構成が好きで、これまでにも死を起点に物語を書いてきました。
死はどんな人にも平等にめぐってきますが、死に方は人それぞれ。死からその人物の足跡を振り返り、一体どんな人生が彼女たちを小説に向かわせたのか、書いてみたかったのです。
私が仰ぎ見てきた先輩方は、皆さん文学に対して一途でした。わがままで意地悪な人もいたけれど(笑)、小説にすべてを捧げているという一点だけで尊敬に値します。
しかも昭和の時代ですから、女性は結婚したら家に入るのが当たり前。小説ひと筋に生きるには、パートナーの理解や協力も不可欠です。そう考えると、女流作家は究極のフェミニストだと言えるかもしれません。
小説を書くという行為は、「鶴の恩返し」のように自分の羽をむしって織り込むようなものです。しかも、そうやって身を削ったあとに、女流作家たちはさらに上等な羽を再生させていく。その満ちあふれる生命力、ある種のふてぶてしさも書きたいもののひとつでした。

