大切な人やものを失ったとき、人は喪失感を抱くものです。高齢者専門の精神科医として、多くの患者やその家族と向き合ってきた和田秀樹先生は、「喪失は誰もが避けては通れないものであり、喪失感を抱く状況は、人生が長くなればなるだけ増えるもの」と語ります。そこで今回は、和田先生の著書『喪失感の壁-きもち次第で何があっても大丈夫』から抜粋し、実際の相談事例とともに、さまざまな喪失感とどう向き合い、どう乗り越えていくかの具体的なヒントをご紹介します。
心の支えにしてきた推しのスキャンダルと突然の引退
会社勤めで定年目前。若い頃に結婚しましたが性格の不一致ですぐに破綻し、以降、結婚には懲り懲りで独り身です。趣味もなく、淡々とした日々を送っていた私にとって、唯一のいきがいが「推し活」でした。ある女性アイドルのファンになってからは、コンサートや舞台、イベントに足を運び、地方にも遠征しました。
笑顔に癒やされ、次第にアイドルだけではなくドラマなどにも活躍の場を拡げるようになった彼女の一生懸命さに励まされ、また推し活仲間との交流で「また明日からがんばろう」と思えた日々。まさに心の支えでした。
ところが先日、彼女が既婚俳優との不倫を週刊誌にスクープされ、出演作は降板、所属事務所との契約も打ち切られ、あっという間に事実上の引退状態に。
「裏切られた」と感じる一方で、「これまで応援してきた時間もお金も、全部無駄だったのか」「もうこんなに夢中になれる存在は現れないだろう」という虚しさでいっぱいです。
心にぽっかり穴が空いたようで、何をしても楽しくありません。今後、何を目標に日々を過ごせばいいのか、自分でもわからなくなっています。 (60代前半・男性)