良いものを長く愛用していた
【朝田】:ネクタイひとつで印象が変わったりしますもんね。
【山本】:知的な印象になったり、明るい感じになったり、ガラリと変わることもあります。ですから、ネクタイだけで30本ぐらいは持っています。
でも、僕はそんなに物を持つ人間ではなかった。子どもの頃は、もう本当に物がない時代でしたから、着るものも、破れたら継ぎ当てをして大事にしてね。だから、気に入ったもの、良いものを長く愛用するのが自分に合ってたんでしょう。
60年前のツイードの背広などは、今でも着ています。
【朝田】:その時々の役に合わせた装いで人前に出ると話しておられましたが、着物をお召しになることもあるんですか?
【山本】:正月は着物で過ごしましたし、舞台やテレビドラマでも着物を着る機会は多かったですね。着物の着こなしは、これがなかなか難しいんです。舞台などでは着物の下に肉襦袢を着ました。それは注文でつくる、わりあい高価なものでした。
昔の人のおしゃれが今と違うのは、襦袢にこるとか、おしゃれを着物の内側に隠していたことです。逆に言えば、外から見える部分では他人と差がつかないから、シャンと着こなしていないとだらしなく映ってしまう。
歌舞伎役者をはじめとする先輩方からは、「足袋をきちんと履きなさい」「襦袢をきちっと着なさい」と教えられたものでした。目につかないおしゃれですね。