何より大事なのは「姿勢」
【朝田】:まさに「足元を見る」というように、足袋にまで気を配らないと軽んじられてしまうんですね。洋装でも、靴はもちろん靴下もきれいに履いていないと見下されるといいますし。
【山本】:足袋のサイズが合ってなくて雑に履いていると、たしかに野暮ったく見える。親指のところがペシャンコになっていたり、小指の収まりが悪かったりすると、文字どおりに格好悪く見えてしまうんです。
だからこそ、出来合いのものではなく、ちゃんと寸法を測って誂えるよう言われたんでしょう。店で売っている出来合いの足袋は、靴と同じように0.5センチ刻みですが、たいていは足と合わない部分が出てきますからね。
着物も吊るしではなく注文したものだと、着たときに心理的な落ち着きを与えてくれるのではないでしょうか。
【朝田】:おしゃれとは、見えない部分をきちんとすること、ちょっとしたこだわりを持つこと、そう言えそうですね。それが、他人からの視線を意識することにつながっていくのかもしれません。
【山本】:何より大事なのは姿勢でしょう。今、僕はもうヨボヨボしてきて情けないんだけど、シャンとした姿勢を保っていれば、どんな服を着ていたとしてもそれなりに格好よく見えるものです。
役者が格好よく見えるのは、やはり立ち姿、歩き姿、座っている姿勢が良いから。歌舞伎の人なんて、どういう姿勢をすればどのように映るか、それはもう徹底的にこだわりますからね。
※本稿は『老いを生ききる 軽度認知障害になった僕がいま考えていること』(アスコム)の一部を再編集したものです。
『老いを生ききる 軽度認知障害になった僕がいま考えていること』(著:山本學・朝田隆/アスコム)
白内障、緑内障、2度のがん、そして軽度認知障害(MCI)。
88歳、俳優・山本學が、軽度認知障害と診断され、体も心も少しずつ衰えていく現実のなかで、それでも「今日を生ききる」その思いを収めています。
一人暮らしを続けながら、食事のこと、病気のこと、トイレのこと、物忘れとの付き合い方、そして終活について、日常の小さな困りごとをひとつひとつ受け止め「もう最期まで付き合おう!」と飄々と語る、その心の内にあるものは?
本書は、山本學さんが、認知症専門医・朝田隆医師と重ねた対話によって生まれた一冊です。
医師としてのまなざしと、俳優としての観察眼が交わるとき、「老いを生ききる」とはどういうことかが浮かび上がってきます。





