誰かの熱量に私たちは魅了される

柚月 昨年、日本将棋連盟が創立100周年を迎え、今日は移転して新しくなった東京の将棋会館にお邪魔しています。1階には道場、おしゃれなグッズ売り場、カフェが併設された「棋の音」というスペースがあって。これからの将棋界も楽しみです。

羽生 そうですね。棋士も強くなるために、将棋AIを使ったりして研究を重ねています。いろいろ変化していきますが、アナログな人と人が戦うことで生まれる魅力、将棋の伝統的な部分をどうやったらいい形で残していけるかということが今後の課題です。

柚月 棋の音道場には、夏休みということもあって子どもたちも大勢来ていましたね。周りのベンチでパンをかじりながら、将棋の本とにらめっこしている姿が微笑ましかったです。

羽生 藤井聡太竜王・名人の活躍もあって将棋を始めてくれるお子さんが増えたのは、嬉しい限りです。いかに将棋の世界に留まってもらうか、その策に苦慮しております。

柚月 憧れの世界に憧れの存在がいるのは、大きなことですよね。文庫の解説で羽生さんが「人が魅了されている姿に人は魅了される」とお書きくださったのが、本当にその通りだと思っていて。将棋AIがどれほど普及しても、人が指す一手の熱量にはかなわないと思うのです。

羽生 最近の変化としては、オンラインゲームで将棋を指す人や、観戦して楽しむ人も多くなったと感じています。

柚月 「観る将」という、各地で開かれる将棋のタイトル戦や大盤解説を観戦して楽しむ方々ですね。私が観にいった大盤解説では、九割九分が女性客で驚きました。

羽生 将棋ファンが増えたことは本当にありがたいですし、昔ながらのファンも変わらず応援してくださっています。熱心な方は、ツアーのように地方大会を一緒に巡ってくださっていて。

柚月 女性はファン同士のネットワークも広いし、一緒に行動することも多いですよね。頭脳戦の面白さはもちろん、棋士の人柄からファンになる方も多いと思います。皆さんお優しいですから。