厚生労働省の「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」によると、令和6年は合計で160万5378人が亡くなり、前年から2万9362人増加したそうです。「多死社会」といわれる日本で、人はどのように死を迎え、その過程では何が起こっているのでしょうか。今回は、検視官として3年間で約1600体の遺体と対面した、立教大学社会デザイン研究所研究員・山形真紀さんの著書『検視官の現場-遺体が語る多死社会・日本のリアル』から一部を抜粋し、現代社会が抱える課題に迫ります。
タンス預金数千万円
冬を感じ始めた曇天の午後、自宅不搬送事案です。一軒家の居間で倒れていた死者を近隣住民が発見しました。少し腐敗が始まっています。死者は生涯未婚で一人暮らしをしており、親族とは疎遠だったようです。自宅は整然と片付いており、生まれ育った実家なのでしょう、すでに亡くなっている両親の思い出の品と思われる着物などもきれいに保管されていました。
事件性はなく署に搬送しようと思っていたところ、環境捜査のために室内を確認していた署員が数千万円もの現金を発見しました。いわゆるタンス預金であり、一部を盗まれたような形跡や犯罪に関係しているような不審点はありません。
一人暮らしの人の死亡で問題になるのは身元確認です。親族がすぐに見つからなかったり、運転免許証のような顔写真付きの身分証明書がなければ、自宅で亡くなっていても一旦は身元不明として扱われます。身元が特定され家族に引き渡されるまでは、署の遺体用冷蔵庫に保管されることになるのです。
後日判明した遠い親族に電話で話を伺いましたが、あまりに遠縁で何十年も会ったこともないらしく、死者の顔貌を確認しての身元特定は難しそうです。死者の生活状況などもよくわかりません。現金も含め遺体を引き取ることには了承してくれました。翌日、その親族立ち会いのもと、さらに自宅を確認してなんとか身分証明書を探し出し、身元を特定することができました。