もう一つ、やはり語り草になっているのが、とどまることを知らない熱弁です。ああ、駄目だな、こんな配色は野暮ったい。ありきたりな古典模様だってこうしてデフォルメすれば新しく見せられるんだから……などなど、年がら年中きものに頭をめぐらせアイディアがあふれて止まらないのです。

その相手は、ある時は《模様師さん》と呼ばれる職人さんでした。誂えの図案の打ち合わせに来たら最後、店の二階でお酒を酌み交わしながら始発まで帰してもらえません。

また、仕入れに行った問屋さんでも番頭さんを相手に30分、1時間と熱弁を振るい、先方も「むら田さんが来た! 話が長いぞ」と心得ていますからふんふんと聞いてくれますが、そうやって物申すだけで何も買わないのも、そこは江戸っ子としては格好がつかないということで、結局、何点も発注して帰ることになりました。

そんな先代は、自分自身も大変おしゃれな人でした。ふだん店に立つ時は洋服のことが多く、シャツはやや丸みを帯びた衿の「和光」製、スーツはホームスパンの上質なツイードで作り、靴下なども微妙に色調が違うグレー系でとんでもない数を揃えていました。

きものについては紬を好み、紺、焦げ茶、鼠色などの濃い地色の小絣やしっかりとした地風の無地、特に結城紬をよく着ていました。薩摩など木綿の織物も大変気に入りで、私の息子たちが受け継いで今でも着ています。

《姿がいい》と先代はよく口にしました。あの人は姿がいい。この帯にこのきものなら姿がいい。そういう先代もまた、実に姿は良かったのです。

九十一歳、銀座きもの語り』(村田あき子・西端真矢:著/KADOKAWA)