「むら田」調
強烈な個性で時に周囲を振り回しながら、きものの世界を突き進んだ先代ですが、実は、その背後には、戦争に由来する苦く厳しい覚悟があったこともお話ししておきたいと思います。
明治のはじめから昭和20年の敗戦まで、日本では健康な男子は3年間兵役に就き、戦時であれば戦場に派遣されて命を落とすこともありました。
ただ、例外もあって、その男子が一家の唯一の働き手である場合は家族の暮らしが成り立たなくなるため、特例として兵役が免除されていたのです。
19歳にして母と姉、妹を養っていた先代はまさにこの特例に当たりました。けれど胸のうちではそのことが大きく響いていたようです。同年代の男性の多くが戦場で命を賭としたのに、自分は日本男児の義務を果たさなかった。その分、良い仕事をして、この国の文化に尽くさなければならない……。
生来情熱家だった先代ですが、この謂わば負い目の想いがいっそう厳しく自らをきもの道に打ち込ませたことを、折に触れて語っていました。