『呪怨』シリーズ作品の多くはオムニバス形式で展開

『呪怨』シリーズは、夫によって妻が惨殺された一軒家・佐伯家を舞台に、その家に住んだり、空き家となったその家に肝試し気分で立ち入ったりした者たちが、次々と呪い殺されていく物語を描く。

ところが、前述した『呪怨:呪いの家』では、長年、シリーズの顔であった伽椰子・俊雄親子の幽霊を登場させず、「呪いの家」を軸に、時代も登場人物も異なる複数の物語を展開してみせた。『呪怨』シリーズは、ともすれば伽椰子・俊雄が主役のように見えるが、実は「家」が主役の作品なのである。

『Jホラーの核心: 女性、フェイク、呪いのビデオ』(著:鈴木潤/早川書房)

『呪怨』シリーズにおいて特徴的なのは、オムニバス形式で複数の登場人物たちの恐怖の物語が描かれ、「呪いの家」を基点にしながら過去・現在・未来が入り乱れることである。

たとえば劇場版第一作では、かつて佐伯家で起きた事件を担当していた元刑事・遠山雄治〔演:田中要次〕が再び捜査に関わることになり、佐伯家に火をつけようとした際、家の中で高校生になった娘・いづみ〔演:上原美佐〕と出会う。しかし、遠山が放火を試みた当時のいづみは小学生であり、遠山は未来の娘の姿を見たことになる。

実は、遠山による放火未遂の数年後、高校生になったいづみは、友人たちと肝試しで佐伯家に立ち入ってしまうのだ。先に呪い殺された友人たちの幽霊に怯えるようになったいづみは、夢に現れた父に対し、「私、あのとき、お父さん見たんだよ」と打ち明ける。つまり、遠山が佐伯家で見たいづみは彼の見た幻覚などではなく、高校生になったいづみ本人なのである。

『呪怨』シリーズとして発表された作品の多くが、オムニバス形式(「いづみ」「響子」などの登場人物の名前でチャプターが区切られる)で展開される。この構造によって、遠山親子が歪んだ時間軸の中で再会を果たすように、観客もまた、入り組んだ時間軸の物語と向き合うことになる。

とくに、シリーズの原点である第一作・第二作はオリジナルビデオとして公開・発売されており、この複雑に入り組んだ物語を巻き戻したり、早送りしたりしながら、繰り返し視聴することによって自分なりに整理することができるという点において、「オリジナルビデオ」という自らの依拠する媒体の特性を最大限に生かした物語を展開したと言える。

<『Jホラーの核心: 女性、フェイク、呪いのビデオ』より>