視聴者たち自身の家をも呪い、侵略していった
そして、オリジナルビデオとして発売された『呪怨』について、もうひとつ述べるべきことがある。それは、「レンタルしたビデオを家に持って帰る」という動作が必ず発生するということだ。
「家」を舞台にした恐怖の物語を描くビデオを、「家」に持って帰る。作中の登場人物のうちの何人かが、肝試しなど、軽い気持ちで佐伯家に立ち入ってしまったせいで致命的な結末を迎えてしまったように、視聴者は軽い気持ちで『呪怨』を自宅に(さらに言えば、自室に)招き入れてしまったせいで、安全だと思っていたはずの我が家さえも恐ろしく思われてくるという結果を迎えることになるのだ。『呪怨』を観たあとは、「勝手知ったる我が家」の安全性はもろくも崩壊する。
作中で伽椰子に呪い殺されるのは、佐伯家に住んだ者たちだけではない。少しでも佐伯家に関わったら、呪われてしまう。
我が家がいわゆる「事故物件」ではないとしても、友人の家は? 仕事で立ち入った家や物件は? そのすべてが「安全」だと、一体誰が言い切れるのか? 『呪怨』は、家に立ち入る「人」を媒介として呪いが連鎖していくさまを描いたオリジナルビデオ作品としてスタートし、レンタルビデオを媒介として視聴者たち自身の家をも呪い、侵略していったのである。