寺島しのぶさん
女優の寺島しのぶさんが、歌舞伎座「十二月大歌舞伎」第二部の『芝浜革財布(しばはまのかわざいふ)』に出演する。歌舞伎座の舞台を踏むのは、2023年10月の『文七元結(ぶんしちもっとい)物語』以来、2回目となる。夫婦役の共演は前回と同じく中村獅童さん。歌舞伎の家に生まれ女優の道へ進んだ寺島さんに、再び歌舞伎の伝統を超える心境を聞いた。(構成:山田道子、撮影:米田育弘)

特別な場所

 『文七元結物語』の千穐楽の日に、父(七代目尾上菊五郎)の家に獅童君と挨拶に行きました。その時、父から「『芝浜』は出来るかなあ」という言葉をかけてもらったのです。以降、私も獅童君もお互い忙しくて年月が経ってしまいましたが、ここにきて、12月という『芝浜』に一番ふさわしい時期に、実現しました。『芝浜』のおたつさんはとても素敵な役ですし、『芝浜』は父の十八番の狂言。それを獅童君と再びやらせていただけることは非常にうれしいです。

歌舞伎座というのは私にとって特別な場所ですから、新しい素敵なキャストの皆さんと一緒に素敵な舞台を作りたい。

 <『芝浜革財布』は、古典落語が元の人情噺。あらすじはこうだ。江戸っ子気質で酒飲みの魚屋・政五郎はある日、大金の入った革財布を拾う。仲間を集めて酒盛りを始めるも酔いつぶれて寝てしまい、目を覚ますと大金が見つからない。女房おたつは「財布なんてない」と言い張る。深く反省した政五郎は勤勉に働き始める。3年後、自分の店を持つまでになった政五郎におたつは、ある事実を打ち明ける……。そして、政五郎は自分の元に戻った革財布のお金を、年末の火事で家を焼け出された人たちに全額寄付するのだ。最後の場面は大晦日の風情たっぷり。12月の舞台では、寺島さんがおたつ、獅童さんが政五郎を演じる。

十二月大歌舞伎「芝浜革財布」(写真提供:松竹株式会社)

 『文七元結物語』も、古典落語が元のお金をめぐる人情噺。映画監督の山田洋次さんが脚本・演出を務め、左官の長兵衛と女房お兼の夫婦を獅童さんと寺島さんが演じた。>

 『文七元結物語』は、山田監督が『文七元結』を作り変えることをモットーにして、そこに「女優さんが出るのもいいかもね」というのがお考えでした。いつものセットではないものを作りたいとか、全く別ものの作品に私を呼んでいただく形だったのです。最初に歌舞伎座に出させていただくのであれば、そのような形なら自分でもできるかもしれないと考えてお受けしました。 

 今回の『芝浜』は、演出家がいらっしゃいません。共演者の皆さん、それぞれに考える『芝浜』があるので、話し合いながら作り上げていきたいと思います。