(写真提供:Photo AC)
近年、国や地域別の幸福度ランキングや「ウェルビーイング」という言葉が注目を集めています。この「幸福」というテーマについて、京都大学人と社会の未来研究院の内田由紀子教授は「自分たちが生きている文化・社会環境におけるウェルビーイングとは何かを問い、データを適切に解釈すべき」と語ります。今回は、内田教授が国際比較を通して日本社会における幸せの特徴を探った著書『日本人の幸せ―ウェルビーイングの国際比較』から一部を抜粋してお届けします。

つながりが多ければ多いほど良いのか?

つながりそのものを価値や資本として捉える考え方は、現代のソーシャルビジネスやSNSの利用でも広がっていると思います。SNSは、つながりを通じて情報やサービスを交換する仕組みを提供し、それを経済的な価値に変換します。しかし、「つながりが多ければ多いほど良いのか?」という問いも重要です。

イギリスの人類学者ロビン・ダンバーの有名な研究によると、人間や動物の群れのサイズには、高次の認知処理を司る大脳新皮質の容量が関係していると推定されています。

霊長類の群れのサイズと脳の容量が相関しているという事実がわかったのですが、この相関関係をもとに予測値を計算してみると、人間の脳の容量から、人間が維持できると推定されるグループサイズを割り出せるというわけです。その結果は約150人とされています。この数値は「ダンバー数」として知られ、人間が安定した社会的関係を維持できる人数の目安とされています(Dunbar, 1992)。

ただし、現代社会では、人間はより大きな規模の集団で暮らしています。たとえば2000人規模の会社で働いている場合、全員が一堂に会する機会はほとんどなく、部署やセクションごとに分かれて活動するのが一般的です。私たちは小規模なグループの中でつながりを維持しつつ、大規模な社会の中に入れ子構造をつくって社会関係を広げてきました。