『パラサイト 半地下の家族』の音楽に込められた深い意味

――ご自身のキャリアを振り返ってみて、転機となったのはいつだったと思いますか?

韓国国内に限っていえば、2014年にシンガーソングライターのパク・ヒョシンと一緒に作曲したポップソングの「野生花」が長きにわたってチャートのトップを飾ったことがありました。その頃から独立した作曲家として認知されるようになったように感じています。ただ国際的に知ってもらえるようになったのは、やはりポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(2019)です。

――そもそもポン・ジュノ監督とは、どのように出会ったのでしょう?

誰かに紹介されて、2014年に公開された『海にかかる霧』(シム・ソンボ監督)の音楽を担当することになったのですが、この映画のプロデューサーと脚本を務めていたのがポン・ジュノ監督でした。その後、彼が2016年に『オクジャ』を撮影している時に、私を探しにきてくれたんです。しばしば映画監督というものは、それまでとは異なる視点を求めて映画音楽を専門としていない、様々なジャンルの音楽を手掛けてきた人物を起用することがありますよね。おそらく私もそのような理由で起用されたのでしょう。

――実際にお仕事をしてみた印象は?

全ての計画を完璧に練り上げ、スタッフ一人ひとりの潜在能力を最大限に引き出す才能をお持ちの方です。一緒にお仕事させていただけるのは幸せですけど、毎回難しいですよ(笑)。例えば『パラサイト』の「オープニング」という楽曲は、脚本の1行目に「暗く、暗く、しかし希望に満ちた音楽が流れる」と書かれていたので、そのサウンドを見つけるためにとてつもなく努力しました。

チョン・ジェイルさん
(撮影:Tomoko Hidaki)

――『パラサイト』を代表する、もうひとつの楽曲「信頼のベルト The Belt of Faith」は18世紀前半のバロック音楽風の音楽ですね。

他の場面でバロック時代のヘンデルが作曲したオペラが流れることも含めて、ポン・ジュノ監督のアイデアです。私はクラシック音楽を専門的に学んでいませんので、沢山勉強して作曲しました。まず台本に基づいて私がひとりで作業を進め、映像の編集が完成してから監督のもとに集まって一日中真剣に議論していったんです。画面にぴったりと合うようにする必要があるため、4拍子と3拍子を行き来しています。

裕福な家から半地下の貧しい家へと降り、反対に貧しい家から裕福な家へと昇る――この構造が劇中で繰り返しあらわれますので、それを音楽に反映させています。時に悲しく、時に風変わりでもある本作のぎこちない優雅さや詐欺師たち。これら全てを同時に表現する上で正統派のバロックではなく、奇妙なバロックだからこそあの場面にピッタリ合ったのではないでしょうか。

――ポン・ジュノ監督がアメリカで製作した最新作『ミッキー17』(2025)でも音楽を担当されています。

ハリウッド映画なのですが、私自身は韓国で作業をしたので『オクジャ』『パラサイト』と何ら変わりません。私に求められた音楽も基本的にはポン・ジュノ監督スタイルのままです。ハリウッド風の音楽が必要になる場面ではバルカン、ブルガリア、モンゴル、アルジェリアなど、世界各地の民俗音楽の要素を取り入れることで、新しい音楽を作ろうと心がけました。愚かな独裁者によって戦争へとむかっていく場面のために作曲した「セット・オフ〔出発〕」では、アドルフ・ヒトラーが戦略的に用いたワーグナーの音楽を意識しています。