数日前と同じように、ハルと秀梅がベンチに座ると、櫻井先生は事件の顛末をぽつりぽつりと話しはじめた。
もともと、秀玲、櫻井先生、山本涼子という寮の同じ部屋のメンバーに檜(ひのき)明日子を加えた四人は学内でも仲がいいことで評判だった。週末になれば四人で外出し、寮の門限をやぶっては四人仲よく罰を受けた。
ところが涼子が内地に編入していったあと、そのバランスはあっけなく崩れた。秀玲と明日子がしばしばふたりで外出するようになり、櫻井先生は、ひとりで過ごすことが増えた。決定的だったのは、櫻井先生との週末の約束を断った秀玲が夜遅くに明日子とチャペルで逢い引きしているところを、櫻井先生が目撃してしまったことだった。
そして、櫻井先生は寮監に、規則違反をしている生徒がチャペルにいる、と密告をした。ほんの腹いせのつもりだった。ところが、寮監が駆けつけたときにふたりが口づけをしていたことから、騒ぎが一気に広まってしまった。
「あんなことになるなんて思っていなかったの。ふたりが惹かれあってるのはわかっていたし、邪魔するつもりはなかった。だけど、なにも噓をつかなくてもいいじゃない! 秀玲はね、試験の勉強に集中したいからって急に断ってきたの。前からおうちに連れていってくれるっていってたのに……。すぐに校長先生から連絡を受けた明日子さんのお父さんが学校に乗り込んできて、相手の台湾人を処分しろって大騒動よ。そして秀玲は退学処分になってしまった。わたし、ふたりを許してほしいって何度も校長先生にも直訴したのよ――」
「いいわけはききたくありません。それに、密告だけじゃない。ふたりの関係が明るみになったあとも先生は姉さんたちを裏切ったんです。先生は、伝言が大事なものだってわかっていたはずなのに姉に伝えなかったんでしょう?」
秀梅のきびしい声に、櫻井先生は、小さくため息をつく。
「こわかったの。明日子に、秘密の場所にメッセージを残したって秀玲に伝えて、っていわれたとき、わたし、駆け落ちか、心中のさそいじゃないかって思った。だってそうじゃなかったら、わたしに預けてくれてもいいでしょう? 伝えようか迷っているうちに、結局時間切れ。秀玲も誇り高いひとだったから、密告したのがわたしだってわかると、もう一言も口をきいてくれなかった。わかってなんていわないわ。でも、わたしだって悲しかったのよ!」
予鈴がなって櫻井先生はふらふらと立ち上がると、秀梅の顔を見ていった。
「わたしたち四人は、ほんとうにいい友だちだったのよ。それを最後に台なしにしちゃったのはわたし。そして、あなたのお姉さんには、ほんとうにひどいことをしてしまったわ。許されないとは思うけど、ごめんなさいって伝えて」
秀梅は、大きく頭を横にふって櫻井先生を睨んだ。
「姉は失意のなかで失踪したんです。あなたたちみんなのせいで!」
それだけいうと、秀梅はハルの顔も見ずに寮のほうに向かって駆けていった。その目に涙が光っているのがハルにはわかった。
櫻井先生は、いまにも崩れ落ちそうな様子で秀梅の後ろ姿を見送ってから、建物のなかに入っていった。
ハルは、櫻井先生の強い後悔と、秀梅の怒りがどちらも体に響いてきて、すぐにはベンチから立ち上がれなかった。
(続く)
