前に踏み出すための糧に

大切な人を失う悲しみは、何年経っても、薄まるどころか深まるばかりです。それでも人はみな、半歩でも踏み出そうとする力を持っていると感じます。ただし、それには時間がかかる。

取材やお便りを通して感じたのは、文章を書く、絵を描く、音楽を奏でる、人に話しかけるなど、何でもいいから自分の感じていることを表現することの大切さ。それがやがて、前に踏み出すための糧になるのだと、みなさんから教えてもらいました。

この本を書いたことで、私自身もまた一歩、踏み出せたと思います。一緒に喪の旅をしてくれた方々、そしてきっかけをくれた夫に対して、「ありがとう」という感謝の気持ちでいっぱいです。

私は今、上智大学グリーフケア研究所で学んでいます。取材を通して、喪失の痛みを誰かと分かち合えるありがたさを感じたことが、きっかけの一つ。痛みを抱える人の心に寄り添う、そんな活動につながるよう、死別の悲しみについて一から勉強したいと思ったからです。

大切な人を失うのは個人的な体験ですが、多くの人が経験すること。表面的には元気そうでも、心を痛めているかもしれない。そんなことをお互いが想像でき、そっと寄り添いながら、少しでもサポートできるようになれば、より優しい社会になると思うのです。

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