阿刀田高
阿刀田高さん(c)新潮社
1月に91歳を迎えた作家の阿刀田高さんは、妻・慶子さん(2025年5月逝去)が介護施設に入所した2023年から一人暮らしを始め、現在も「“まあまあ”でいいじゃないか」をモットーに軽やかな日々を過ごしています。そこで今回は、阿刀田さんの2025年の著書『90歳、男のひとり暮らし』から一部を抜粋し、お届けします。

週に一度くらい妻に会いに行く

妻はレビー小体型認知症を患い、2年ほど前から施設に入り車椅子の生活、親しく大方の世話になっている。要介護4、かなり重い。

今にして思えば5年ほど前から兆候があったのだが、気づかなかった。病気が進み施設に入れるには多少の苦労がある。素直に入る人など滅多にいないのだ。騙すようにして入所させたが「しばらくあなたは会いに来ないでください」と言われた。私が顔を出せば妻は「どうしてこんなところにいるの?」「帰りましょ、早く」とせがみ、暴れだすかもしれない。この施設の生活が自分の安住の場と思わせることが大切なのだ、と。

私はさりげなく離れて見守っていたが、直接会うようになったのは3ヵ月後、個室でつつがなく暮らしていた。子どもたちはべつとして妻の友人知人にも面会を断っている。当人に今とはちがう日々があったことを意識させるのは治療にもわるく、また不幸なことでもあるのだ、と。昨今は「ここはいいところね」と安住している。

私は週に一度くらい会いに行くのだが、これは喜ぶ。一番嬉しいことかもしれない。会ってすぐは「久しぶりね」とほとんど平生で、

――ここに預けておいてよいのだろうか――

と疑いたくなるほどだが、7、8分もするともういけない。