ローマ料理に欠かせないメニュー
こうした歴史が独特な食文化を形成した。ユダヤ人居住者によって伝えられたユダヤ料理、それに労働者が好んで食べた臓物料理もこの地区ならではである。19世紀末に、ローマの人口増加に伴ってその胃袋を満たすため、トラステヴェレの対岸にあるテスタッチョ街に食肉処理場が置かれた。おかげで臓物がふんだんに手に入り、珍味を料理するのに慣れていたトラステヴェレの人々が調理し、ローマ料理に欠かせないメニューに加わった。
この臓物を「quinto quarto(4分の5)」と言うが、それは、臓物が枝肉全体の重さのおよそ4分の1に相当することに由来する。臓物は、前脚後脚の四本の部位より値が高い。かつては食肉処理場で働く労働者の給料として、臓物の一部を現物支給していたことがあった。
ローマでは、カルチョーフィ(アーティチョーク)やプンタレッラなど特徴的な野菜を使った料理も有名だ。プンタレッラは春の味覚である。チコリという菜っ葉の一種だが、茎の付け根がふくらんでいて、少し苦みがある。アンチョビと和えてサラダにしたり、オリーブオイルと唐辛子でソテーにしたりして食べる。独特の香りがして美味しい。こうした野菜は、ローマ市近郊で多く栽培されている。
※本稿は、『イタリア食紀行-南北1200キロの農山漁村と郷土料理』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『イタリア食紀行-南北1200キロの農山漁村と郷土料理』(著:大石尚子/中央公論新社)
「隣町に行けば言葉もパスタも変わる――。」
イタリア料理は味わいのみならず、多様性が魅力。地域の風土・歴史に根ざした食材や伝統料理法が受け継がれているのだ。
南・北・中央・島々をめぐり、ポベラッチャ(貧乏食)の知恵を足と舌で探る。 またアグリツーリズムや有機農業、スローフード運動など、地域再生のソーシャル・イノベーションにも注目。




