「私です、平野(ひらの)さん」
「大川さん! お久しぶりです」
 流木を使った立体作品を得意とする平野時生(ときお)は、蛇が脱皮するようにずるずると寝袋から這い出した。
「お休み中でしたか。申し訳ない」
「いえ、もう昼を過ぎてますよね。そろそろ起きます」
 あちこちに絵の具や木くずが付着したパーカーとデニム姿の時生は、両腕を持ち上げて大きく伸びをし、床に置いてあった黒縁眼鏡をかけた。もともと傑より数歳下だが、顔つきが柔和で、いつも貧乏な大学生みたいな格好をしている時生は、ともすれば一回りくらい下に見えることがある。それは時生に限った話ではなく、仕事で表情を調節する必要がないアーティストたちは実年齢よりも若く見える傾向がある、と傑は感じている。
「今回はずいぶんインパクトのある作品ばかりですね」
「そうですか?」
 時生は「ううん」と曖昧な相づちを打ち、まるで自分でもよくわかっていないものを眺めるような淡い顔つきで、周囲の枝人形を見回した。
「個展の準備は順調ですか」
「はい。――ああ、でも、まだぜんぜん完成形が見えないものがあって」
 時生は手を浮かせ、ちょうど寝そべっていた位置の真隣に置かれた枝人形を指さした。
 その人形は体つきが大人で、黒い簡素なスツールに腰かけてぼんやりと前を見ていた。特に体に装飾はなく、枝を組み上げただけの状態だ。たしかに制作途中なのだろう。他の枝人形に比べてどこか姿勢が硬く、マネキンっぽい空虚さを帯びている。
「どうすればいいと思います?」
 急に時生から問いかけられ、傑は困惑した。