入り口近くには枝人間が多かったけれど、部屋の奥の方には過去の個展を想起させる動物の形をした新作もいくつか見られた。会社のロビーに飾るなら、枝人形よりも動物シリーズの方が爽やかな印象で勧めやすいか。会社のシンボルになるような勢いのあるアート作品が欲しいと言っていた社長に、角を突き上げた犀(さい)や、今にも走り出しそうな馬の作品を提案するのはどうだろう。枝人形たちは屋内より、公共空間に置いた方が好まれそうだ。顧客の一人が、森林公園をまるごとアート空間にする自治体主催の企画に携わっていた。時生を紹介したら喜ばれるかもしれない。
「この辺りの作品で、うちのお客さんが好きそうなものはいつも通り声をかけてしまっていいですか」
呼びかけて、返事がくるまでにたっぷり十秒はかかった。
時生は急に「はい!」と素っ頓狂な声を上げ、傑の方へ体をねじってその場でぺこりと頭を下げた。
「それはもう、いくらでも……いつもすみません。助かります」
「いえ、もちつもたれつなので。うちの会社のロビーに飾ってある平野さんの鹿を見て、自分の会社にもこういう作品が欲しいって言う人がけっこういるんです。紹介すると、喜ばれます」
「鹿は自信作でした」
「よかったです」
いくつかの作品をスマホのカメラで撮影し、傑は満足感とともに画像フォルダを眺めた。
