スピード重視の意思決定がもたらしたほころび

ちなみにB社長の経歴をみると、1981年に日本長期信用銀行(当時)に入社後、2004年からセブン―イレブン・ジャパンに入り企画部門などを歴任したのち、2018年6月にセブン・ペイ社長に就任している。金融や財務のプロであることは間違いないが、個人向けキャッシュレス決済システムの運用やセキュリティ実務については経験が限られていたとみられる。

セブンペイの立ち上げでは、セキュリティ面の十分な検証よりもスピード参入が優先され、経営陣がリスクを十分に把握しきれなかったことが、不正利用を招いた大きな要因となった。キャッシュレス決済は金銭が直接絡むだけに、万全のセキュリティがなければ利用者被害や企業ブランドの失墜は必至である。それにもかかわらず、リリースを急ぎ、専門知識を持つ人材の十分な活用がなされなかったことが悲劇を招いた。

結果として、セブン&アイ・ホールディングスは多額の補償や事後対応に追われ、大きなブランド毀損を被った。QRコード決済市場はスピードが競争力のカギとされるが、セブンペイは拙速な投入とリスク評価不足の代償を高く支払う事例となった。この失敗は、経験領域の異なるトップと、急ぎの市場投入を決断した意思決定が重なったことで生じたといえる。

※本稿は、『企業不祥事の真相 「普通の人」を悪者に仕立てる歪んだ構造』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

【関連記事】
勤続30年の教員、飲酒運転で退職金1720万円が不支給に…「処分が重すぎる」との訴えに出した<最高裁の結論>とは
約168億円の会社資金を独断で仮想通貨に。50億円超の巨利を生んだ男への判決は…ソニー生命不正送金事件の<皮肉な結末>
「第三者委員会」の社会的な影響力が高まるきっかけ<オリンパス不正会計事件>とは?会計学者「東証まで救済のシナリオに参画した結果として…」

企業不祥事の真相 「普通の人」を悪者に仕立てる歪んだ構造』(著:秋山進/日経BP 日本経済新聞出版)

仕事の重圧は、明日、あなたを襲うかもしれない!

オルツ、小林製薬、宝塚、フジテレビ……。

ニュースでは報道されない「普通の組織」に潜む罠を、コンプライアンス問題のプロが解説。