西国三十三所巡礼
私の場合、旅の種は常時10種ほど取り揃えています。それらはわざわざひねり出したものではなく、旅を重ねていくうちに積み重なったものです。
私の旅好きは子供の頃からで、ある意味筋金入りではあるものの、30代になるまでは学校や職場の団体旅行や旅行会社のパックツアーを利用した旅しかしたことがありませんでした。本格的に一から独力で全行程を組むひとり旅の楽しみに目覚めたのは2008年から2010年にかけて行った西国三十三所巡礼が大きなきっかけだったと思います。
西国三十三所巡礼とは、近畿地方を中心とした観音霊場を巡拝する日本最古の巡礼で、和歌山県の青岸渡寺から始まり、奈良の長谷寺、京都の清水寺など著名な寺院を含む三十三の札所を巡る、代表的な巡礼コースです。
その巡礼コースを草創したのは奈良時代に実在した長谷寺の僧・徳道上人だとされていますが、2008年が巡礼中興の祖である花山法皇の千年忌にあたるというので、大々的な特別開帳が行われたのです。年に一度の開帳はもちろん、33年に一度というようなよほど機会に恵まれないと拝観できないような観音像まで、一斉開帳されることになりました。
当時、物書きになりたてホヤホヤだった私は、御縁あってとある出版社からこれに合わせた札所の案内本の執筆を依頼されました。
もともと寺巡りが好きな上、出身地が大阪で子供の頃から近畿地方の名刹古刹にはよく訪れていたというのもあり、ふたつ返事で引き受けたものの、さていざ書き始めてみるとやはり行ったことがある場所とそうでない場所では原稿の出来がまったく違ってくることに気づきました。当該書は旅のガイド本ではなく、あくまで各札所の宗教的/文化的背景を解説するものだったので、資料を調べるだけでも書けるといえば書けるのです。しかし、場の空気などの細かな描写は訪問した経験からしか出てきません。
結局のところ、締切の関係もあって、すべての寺を訪れてから書くなんていう悠長なことはできませんでしたが、出版後、開帳期間にすべての寺をお参りしようと決心しました。
ただ、全制覇は容易ではありません。というのも、開帳は3年間のいずれかの時期に行われるというだけで、期間はバラバラ。資金豊富かついつでも気軽に出かけられるような身分ならひとつひとつの開帳時期に合わせてゆっくり訪問すればよいでしょうが、駆け出しの身分ではそうもいきません。
そんなわけで、私は開帳スケジュール表とにらめっこしながら、もっとも効率よく全寺を巡れるよう計画を組むことにしたのですが、この作業が性に合っていたというか、とても楽しかったのです。
当時はもうすでにインターネットで検索すればたいていの情報は出揃いました。ほとんどの寺が公式サイトを設けていましたし、御開帳に合わせた公式総合サイトまで設けられていました。また、交通手段も経路検索サイトを使えば最寄り駅までの最適ルートを確認できます。
しかし、どういう順番やルートで回れば効率よく、しかも慌てることなく見学できるかとなると、これはもう自分で考えるしかありません。また、食事や宿泊場所の問題があります。
お寺はだいたい夕方5時には閉門する(冬期は4時ということもあります)ので、それまでが勝負。西国三十三所の場合、京都市街のように徒歩移動も可能な距離のお寺もありますが、ほとんどの寺は番号が近くても距離はそこそこ離れています。そのため自動車を使わない参拝では最大でも1日4ヶ寺が限度、中には交通の便が悪すぎて午前と午後でそれぞれ1ヶ寺ずつが関の山ということさえありました。それもあって特別開帳に3年という長い期間が取られたのだと思いますが、プラン作成スキルの上達には最適の練習台となったのです。
