旅をしながら理解していったこと
そして、旅をしながら、少しずつ理解していったことがありました。
主目的が巡礼礼拝でも、同時に他のテーマもあれば旅は2倍も3倍も楽しくなる、と。
寺を歴訪するのであれば、仏教教義や仏像の見方はもちろん、寺院建築や庭園の基礎知識があると格段に眼の前に見える景色の解像度が上がります。
たとえば、ひと言で観音像といっても聖観音像と如意輪観音像とではまったく感じが異なります。また、同じ千手観音でも、第五番紫雲山葛井寺の国宝千手観音と第六番壷阪山南法華寺の十一面千手観音菩薩では印象が違います。各寺それぞれに大変個性豊かなお像が祀られているのです。しかし、あまり意識しないまま漫然と手を合わせるだけだと、なぜそんな違いが生まれるのかについては思いが及びません。
寺院の建築もそう。時代や立地によって建て方も装飾もずいぶん違います。また、お寺にはお庭がつきものですが、これも回遊式庭園と枯山水庭では楽しみ方が異なります。
もちろん、違いに気づく必要なんてないという考え方もあるでしょう。でも、せっかく旅に出るならば、ちょっとでも楽しみたいもの。それに巡礼の場合、仏像や寺を造った人々、そして守ってきた後続の思いを汲むのも、ひとつのマナーだと私は考えています。
また、下世話なことで恐縮ですが、どうせ拝観料を出すならちょっとでも感動が多いほうがお得だと思いませんか?「巡礼」に「仏教美術見学」を加え、さらに「歴史的経緯の勉強」をプラスすると、これで「三つのテーマ」の完成です。
さらにさらに門前町の名物狩りなんていうのも入れると、俗世の楽しみも加わります。また、寺社の周辺には妖怪譚や怪談が伝わることが多いので、そういう話が大好きな私は「伝承地の現地調査」と洒落込むこともあります。
3年にわたる断続的な西国三十三所巡礼旅は、私にとって大変実りの多いものでした。「三つのテーマ」という手法を見出しただけではありません。山道の脇に咲く季節の花を愛でる楽しみ、ローカルバスで珍しい地名を見つけては後で由来を調べる楽しみ、門前町の「食堂うどん」を食べ比べる楽しみなど、様々な「テーマの種」を拾い集めることができました。思うに、これが巡礼一番のご利益だったかもしれません。
このように、実際に旅に出てみると芋づる式に旅のテーマを見つけられるようになります。ですので、テーマをどう設定していいかわからなければ、小さくとも心に響く何かがある場所に躊躇なく行ってみることをおすすめします。その中から、きっと新しい種が見つかるはずです。