正しい食べ方
とろろの入ったつゆにも味はついている。しかし、冷静に考えると粘度が高すぎる気がする。とろろ椀からつゆの入った蕎麦猪口に少し移して食べるのが正解かもしれない。
またしても平静を装い、椀をそっと傾けて蕎麦猪口に少しとろろを入れる。いや、おかしい。これが正解なら、とろろを蕎麦猪口に移すためのレンゲかなにかが付いているはずだ。そもそも冷やし蕎麦カルチャーにレンゲはおかしい。しまった、大きく間違えた。
ならば、とろろ椀のほうに蕎麦徳利からつゆを足すのが正解か。三度目の正直とばかり、蕎麦徳利からとろろ椀につゆを足す。あっという間に椀からとろろが溢れ出しそうになり、今度は蕎麦をつける隙がなくなった。また間違えた。二度あることは三度ある。
試行錯誤を重ねるうち、とろろ椀と蕎麦猪口の中身はほとんど同じものになった。おっかなびっくり蕎麦をつゆに浸していたせいで、案の定蕎麦が足りなくなる。もう破れかぶれだ。すみません、ざる一枚追加で。
ふてぶてしいので、味わうことは忘れなかった。これが半世紀生きた人間の強さである。
店を出るや否や、「冷やしとろろ蕎麦 食べ方」とスマホで検索する。ヤフー!知恵袋が上位に出てきて、「とろろせいろ(ソバ)の冷たいヤツの正しい食べ方はどういうものでしょう?」とあった。よかった、私だけではなかった。曰く、とろろの入った椀につゆを少しずつ入れてかき混ぜて、蕎麦をつけて食べるものらしい。
画像検索もしてみた。過去に私が食べたものは、丼に盛られた冷たい蕎麦の上に最初からとろろと生卵がかかったものだとわかった。道理で戸惑わなかったわけだ。
恥は掻いたが、もう間違えはしない。人は成功からではなく、失敗から立ち直ったときに成長するのだ。冷やしとろろ蕎麦、どんとこい!
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きのうまでの「普通」を急にアップデートするのは難しいし、ポンコツなわれわれはどうしたって失敗もする。変わらぬ偏見にゲンナリすることも、無力感にさいなまれる夜もあるけれど、「まあ、いいか」と思える強さも身についた。明日の私に勇気をくれる、ごほうびエッセイ。






