義母から目が離せない

義父の入院中、義母を一人で実家に住まわせることは危険だとのケアマネの意見から、私と夫は義母をとりあえず一週間、わが家で預かることを決めた。

身の回りの荷物とともに義母を車に乗せてわが家に向かう道中、義母は「どこに行くの?」「誰の家に行くの?」とひっきりなしに聞いてきた。まるで、わが家への道のりを一切記憶していないかのような言い方だった。夫は怒った口調で「俺の家だよ!」と答えていた。

(写真提供:Photo AC)

わが家に到着した義母は完全に混乱していた。

きょろきょろと辺りを見回し、不安そうだった。もちろん義母は、わが家には何百回と来たことがある。むしろ、そう頻繁に来ないで欲しいと私が訴えるほど、遠慮なしにやってきていた。それなのに、とても居心地が悪そうにし、あれだけ溺愛していた孫たちにも素っ気ない。双子で似ていることもあって、どっちがどっちかの区別もついていない。お義母さん、ここで寝て下さいねとベッドを示しても、不安そうに座ったままで横になろうとしない。私はそんな義母を見て、大いに不安になった。

義母は「失礼致しました……」と小さい声でつぶやきながら、帰り支度をし続けた。少しでも目を離すと、玄関から出て行こうとする。

この日から数日、私は義母から一切目を離すことが出来なくなった。私が仕事をしている隙を見て、義母がすっと玄関から出て行ってしまうのだ。薄着のまま家を出て、どこに向かうのかと観察していると、どんどん山道に向かって歩いて行って、大慌てで追いかけたこともあった。家の周りをぐるぐると、ただ歩いている日もあった。家の外構に背中をつけ、忍び足で歩く姿を目撃したときはショックだった。何を警戒しているのか。

私は変わってしまった義母の姿を見て、恐怖を感じるようになった。もしかしたら彼女は、私の存在すら、わかっていないかもしれない。パソコンに向かっているとき、ふと感じる義母からの視線。ドアの隙間から私のことをじっと観察し続ける義母。私はキッチンに無造作に置いてあった包丁を隠した。山道に向かう義母の手を掴んだとき振り返った彼女の目が、他人を見るそれだったからだ。