「ありがとうございます。ヤマトタケルのエピソードなど、上手に書いてくれて問題はありません。ただ一点、ネット販売のことも触れてもらえますか」
「そちらも力を入れておられるんですか?」
「ええ。すこし癖のある風味を気に入ってくれる人がいて、オンラインでのリピーター注文が多いんですよ。あと、SNSもやっていますので」
「わかりました。詳細欄にネット情報を追加して、本文ではリピーターが多いということも強調しておきます」
「助かります」
老眼鏡を外すと、顔がすっと穏やかになり、また寂しくなった。
ぐるりと店内を見回すと、前回来たときにはなかった石上露子(いそのかみつゆこ)のポスターが眼に付いた。寺内町出身の女流歌人ということで様々な紹介がされている。
「石上露子ですか。皆さん、熱心に活動されているんですね」
「ええ。寺内町一番の豪商、杉山家の人ですからね。山際さんは国文学専攻とおっしゃっていましたが、石上露子のことをご存じですか?」
「名前だけです。詳しいことはあまり」
ちょっと待ってください、と霧は奥に引っ込み、戻ってきたときには本を持っていた。
「石上露子の評伝です。興味がおありでしたら差し上げますよ」
「ありがとうございます。なんだかもらってばっかりで」
「これも寺内町の宣伝ですから。昔の町の雰囲気などよくわかります。よかったら案内しますよ。お時間ありますか」
「ええ。でも、お仕事中に申し訳ないです」
「僕もすこし休憩したかったんです。じゃあ、出ましょう」
霧が奥に向かって叫んだ。
「剣人。ちょっと出てくるから店、頼む」
「わかりました。行ってらっしゃい」
先日会った若い男が出てきた。その表情はなにか嬉しそうだった。私を見て一礼し、顔を上げたときもまだ笑っていた。
「どうぞ、ごゆっくり。店のことは俺が全部やっときますんで」
どうしてあんなに上機嫌なのだろう、と不思議に思った。
