「歌舞伎俳優ではなく、映画俳優で撮りたい」
<鴈治郎さんは、吉沢亮さんと横浜流星さんらの歌舞伎の演技指導を請け負った。李監督は、「歌舞伎俳優ではなく、映画俳優で撮りたい」と言ったという>
女方を演じる吉沢さんと横浜さんにはまず、「女になる」ということを教えました。女になることには誰でも戸惑いがあるでしょう。私たち歌舞伎役者も同じです。稽古場では、素顔なので。例えば、父がお初、私が徳兵衛の稽古をする。親子だからなんとかできるけれど、赤の他人だと、目を見つめ合ったりすると照れが出たり、どんなに自分が女になっていても相手が笑ったり……。そのようなことが吉沢さんと横浜さんにも起きた。
「女になる」にはまず模倣からです。父がやったお初のビデオなどを見てもらい、彼らは、それを見て予習、稽古、復習を繰り返し、自分たちのものを作り上げていきました。
<鴈治郎さんは、歌舞伎俳優、吾妻千五郎役として出演もした。名門・富士見屋の当主。スキャンダルで騒がれた喜久雄に同情しアドバイスをするが、喜久雄に恋心を抱く自分の娘を踏み台に成り上がろうとする喜久雄に対して厳しくあたる>
映画には、出たいと一言も言わなかったし、出るつもりもありませんでした。李監督によると、吉田さんがどうしても私を出してほしいと言ったそうです。ヒッチコックみたいに、さりげなく画面の一角に出るのかと思ったら、違いました。未だに悩ましいのは、吾妻は江戸の役者なのに、私がやると上方の大御所みたいに受け取られること。一生懸命、べらんめえ調でやったつもりなのですが……。
撮影では、李監督は譲らない。私のシーンに限らず「もう一回行きましょう」とテイクを何回も重ねる。あそこまでやられると、こっちも引き下がれなくなりました。