しばらく井戸端でじっとしていると、さすがに身体が冷えてきた。
 からからと縁側の戸が開く音がした。
「霧さん。剣人が後で帳簿見て欲しい、って」
 瀬良がやってきた。手に持ったお盆の上には熱いお茶と芋けんぴがある。
「わかった」
 俺は瀬良からお盆を受け取った。芋けんぴを一本口に運ぶ。
「ねえ、霧さん。最近、独りでここにいてはること多いね」
「はは、サボりすぎだな」
「違う違う。……居候のあたしらが言うのはおかしいんやけど……ここは霧さんの家やから遠慮したらあかん。あたしも剣人も優人も騒がしいタイプやから、迷惑やったらはっきり言うてほしいねん」
 瀬良の眼が真剣だ。剣人はいい人と結婚した、と改めて感じた。
「迷惑なんかじゃない。それどころか一緒にいてくれて助かってる。俺がここにいるのは、君たちがうるさいからじゃない。子供の頃からの癖なんだ。それだけだ」
「ならええけど……」
 そのとき、ポケットでスマホが震えた。彼女からか、と慌てて取り出して確認したが、つまらないポイント通知だった。がっかりしてポケットに戻すと、瀬良がにこっと笑った。