無理強いは禁物。「北風と太陽」作戦で

お母様がお使いになっているのが部分入れ歯か総入れ歯かわかりませんが、入れ歯をつけたまま寝ることは基本的におすすめしません。飲み込んだり、気管の入り口に引っ掛かってしまったりするリスクがあるからです。

また、口腔内に細菌が繁殖しやすくなるので、感染症や口腔内の炎症を引き起こすリスクが高まります。さらに長時間にわたり歯茎が入れ歯で圧迫されるため、血行不良を起こし、歯茎の健康が損なわれるおそれも。

ただ、お母様はすでに90歳。認知症の傾向もある。いくら「正義」をぶつけても理解してもらうのは難しいでしょう。そこで私からのアドバイスは二つ。

一つはお母様が何かの機会に入れ歯をはずしたら、もうつけさせないことです。「食事のときに不便では?」と思うかもしれませんが、メニューを工夫すれば大丈夫。

私が勤務する高齢者病院でも、入れ歯ナシで問題なく食事できる方は少なくありません。軟らかく炊いたごはんや煮物などでしたら歯茎だけでも十分咀嚼できます。主治医に説得してもらって入れ歯をはずすのも一つの手とお考えください。

もう一つは「夜、寝るときに入れ歯をはずすといいことがある」とお母様に学習してもらう方法。入れ歯洗浄剤の入った可愛いカップを用意し、「ここに入れて、洗おうよ」と誘導してみる。1回でもお母様が入れてくれたら、「すごくきれいになった!」「お母さん、えら~い」と褒めましょう。

旅人のマントを脱がせたのは北風ではなく太陽だったというイソップ寓話『北風と太陽』に倣い、お母様が自ら入れ歯をはずしたくなる作戦を考えるのです。

それでもお母様が入れ歯をつけたままで、何か不都合なことが起こったとしたら、それはもう不可抗力。相談者さんの責任ではありません。

老いた親に無理強いはかえって危険なこともあり禁物です。不毛な闘いを続けるより、残された時間をいかに母娘で楽しく過ごすか考えたほうが、お互いの幸せにつながるのではないでしょうか。


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